ニラの秘密

桜の樹の青葉も繁り、野山はいよいよ春真っ盛りです。

先日、陽気に釣られてご近所を散歩していると、地表に顔を出したニラ(韮)の新芽を見つけました。

ニラはご存じ、ニラ玉やニラレバ炒めに用いられる中華の定番食材です。

スーパーの生鮮売り場に並ぶお野菜の一種ながら、意外にも市街地の空き地や野原で自生する姿を見かけることも少なくありません。

種子から発芽したニラは棒状の子葉を立ち上げます。

よく見ると、ふたつ折りのピンセット状になっています。

土中からの発芽に適したこの形状は、ニラの種子が嫌光種であることと関係があるようです。

ニラが発芽する場所を見てみましょう。

野生のニラは、日の光が降り注ぐ乾燥した荒れ地を好みます。

多くの植物はこのような過酷な環境を苦手にしています。

ニラは環境への適応力を高めることでライバルとの競争を巧みに避けているのです。

ニラの強みは成長点の位置にもあります。

一般的な植物の場合、細胞分裂が活発に行われる成長点は根や芽の先端にあります。

しかしながら、ニラの成長点は葉が枝分かれする地表近くにあります。

これは人の手が頻繁に加わるような環境下でニラに大きなメリットをもたらします。

葉を刈られたとしてもいち早く成長点から新芽を伸ばし、他の植物に先駆けて光合成を再開することができるのです。

マイナスの条件をプラスに代える、脱帽ものの高等テクニックです。

ニラの葉を折ってみましょう。

独特のニンニク臭が立ちます。

これはアリシンという化合物によるものです。

アリシンの独特の香りと辛みは葉を食する虫を遠ざけます。

他方、人にとっては有益で、疲労回復や滋養強壮といった効用をもたらします。

美味しくて健康に良いからこそ、人はニラを植え育てます。

ニラはアリシンによって防虫種の繁栄という一石二鳥の効果を得ているのです。

晩夏、ニラは白い花を咲かせます。

長い花茎の先に数十もの小さな花を丸く寄り添わせます。

群生するニラを遠くから見ると、まるで白い絨毯のようです。

風にそよぐその様は、残暑のきびしさを束の間忘れさせてくれます。

ニラはなにげない小さな草ですが、巧みな生存戦略で厳しい自然界をしたたかに生き抜いています。

屋外が気持ちのよい今のシーズン、時に街角や野山で植物の意外な知恵や工夫に触れてみてはいかがでしょうか。

【この記事は2023/4/7掲載記事の再掲です】

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です